ヨメさんとしばらく行ってなかった馴染みの店まで呑みに行った。

この日は店のママしか居ない、オレとヨメさんの貸切状態だった(苦笑)。

そんな時、1人のお客さんが来た。ママとは知り合いの様で、カウンターに座ろうとしたのだが、ママがオレたちの隣のテーブルを勧めて、一緒に呑む事になった。
軽度の障害がある子らしく、歩き方も片側を引きずっているし、呂律もまわらず上手く話せない。
自分で自覚しているのかオレたちに遠慮がちで、とても緊張している様子だった。

そんな姿に「(どう話題を振るかな…)」と着目したのは彼の服装で、わざと斜めにかぶった帽子や革のコート、豹柄のパンツなどを見る限り、ファッションに興味があるハズ。
そんな事を考えて声をかけると、知り合いの古着屋に行く事が好きで、革のコートは父親の物を拘って着ているという。

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そんな流れでオレも生まれ歳のハーレーを乗り続け、結婚前にヨメさんに買ってもらった、同じ生まれ歳の腕時計を大切にしている話をすると、斬新な発想だったらしく、随分と気に入って喜んでくれた。

聞けば彼の母親も介護が必要らしく、今日は母親の食事の買い物の帰りに、少しだけ呑もうと立ち寄ったらしい。

日々の介護で趣味も特になく、自分のお気に入りの服を着て、近所に呑みに行くぐらいが楽しみだという彼に、いっそTシャツや帽子をデザインして自分で作ったり、財布やカバンを作ったらどうかと提案し、方法なんかをレクチャーした。

彼にしてみると、偶然相席した夫婦が、自分と共通する趣味やその知識の豊富さに圧巻するぐらい驚いていたし、彼のやりたい事のほとんどが実践してきた事を説明する度に、目を輝かせて聞いていた。

最後は握手をして先に帰ったが、健全者ではない彼が卑屈になっている最初の印象が大きく変わった事を感じたし、オドオドと気を使ってオレたち隣に来た時と違って、一緒の時間を楽しんでくれた事が嬉しかった。

難しい問題なのだが、障害を持つ彼に同情もおかしいし、距離を置く事も違う。
純粋に応援してあげたい気持ちの中で、こうやって共通の話題で対等に盛り上がれた事はとても良いと思ったし、何とも言えない達成感というか、満足感があった。

見ず知らずの人とイキナリ友達になって、一生付き合う事など難しいが、見ず知らずの人とイキナリ上手くやれる能力は、仕事においても重要だと思う。

その裏には話題性や話術以外にも、相手の様子を伺える気配りが隠されていると思うし、へっつらうカタチで相手に合わせるだけでは自分自身のストレスになってしまう。

『解ってくれる人だけで良い』という考えは若い頃から変わらないが、歳を取るごとに味方(理解者)が増える事の喜びも感じる様になった。

だから媚びようとは思わないが、相手に喜んでもらう事は素直に嬉しいし、その為にできる事を考える事は、仕事も含めた人間関係全てにおいて、活かされている気がする。

今日一緒に飲んだ彼と、いつかまた会えるかは解らないが、次に会った時はきっと、最後に別れた時の様に、顔を輝かせてオレの隣に座る気がするし、自分で満足してそう思える事が、オレ自身もまた幸せな気がするのだった。

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