いつもお世話になっている居酒屋さんの向かいには、人気のラーメン屋さんが建っている。

お向かいさんに位置するので、ラーメン屋さんのマスターは帰りに居酒屋でお持ち帰りとして焼き鳥を買って帰ったり、余った食材を分けてくれたりするらしい。

ラーメン屋さんは行列ができるぐらい人気のラーメン屋さんなので、居酒屋の店員さん達もラーメンを食べに行くし、そうする事でお互いの関係が良くなれば良いと思うのだが、居酒屋さんの大将だけは、まだラーメンを食べた事がないと言う。

オレたちもよく食べる本当に美味しいラーメンなので散々勧めたし、単に美味しいから食べるのではなく、お互いの関係にも繋がるのだからと思うのだけれど、なかなか腰が重そうだった。

色々話を聞いてみると、オレより10歳近く歳が下の大将は、まだ小さい子供も含めてお子さんが3人いて、家のローンもある為に、奥さんも既に働いているのだと言う。つまり、そういう事なのだ。

独り者の若い店員たちと違って、自由に使えるお金も無いし、雇われの店長の給料などたかが知れている。コロナ禍の影響も続いてきた今の状況で、自分ひとりが昼食の為にそんなにお金をかけられない。なかなか、難しい背景があった。

それを聞いてオレも迷ったが、ラーメン屋さんで食券を買って、居酒屋の大将にプレゼントした。

ラーメン屋さんにも事情を話すと、印刷されている日付だけをマジックで塗り潰してくれ、「直接渡してくれればいつでも作る」と言ってくれたので、その説明も大将に話すと、とても喜んでくれた。

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恩着せがましいと思われるのも嫌だし、正直そこまでしなくてもという思いもあったのだが、美味しいラーメンなので一度食べてもらいたかったし、そのラーメンは事前に連絡すればお持ち帰りで持って帰る事もできる。
食べた大将が気に入ったのなら、いつかお持ち帰りで持って帰って、奥さんや子供たちに食べさせてやる事もできるのだ。

それを思うと、やっぱり『できる事はしてやりたいな』という思いが勝って、ラーメン1杯¥700の値段で、人の役に立てるのならと思った。

正しい行動だったかどうかは解らないし、もちろん何か見返りを期待している訳でもない。自分で良かれと思う信念に従っただけだが、オレは普段から財布を持ち歩いていない。

ラーメンの食券を買う為にはヨメさんに金を貰わなければならないのだが、事情を知らないヨメさんは何も言わずに渡してくれた。

呑んだ帰り道、改めてヨメさんに事情を話し、¥700ぐらいオレたちが呑みに行った時に、1品我慢するのを2回も続ければ、すぐに回収できると言うと、ヨメさんも「全然問題ない」と笑っていた。

色々とややこしい状況の決断だったが、「¥700で親切が買えたのなら」とオレ自身も納得ができたし、そんな無鉄砲なオレに、文句も言わずについて来てくれるヨメさんで良かったと思うのだった。

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