********************

「だから、このままじゃダメだと思うんスよ」

夜遅く、岡崎の『フリーバード』という広島風お好み焼き屋で呑んでいた

すっかり他のお客さんも帰って、とっくに閉店時間になって暖簾もしまわれた薄暗い店内で、テッちゃんと二人で盛り上がっていたのだ

「泊まっていきな」と言われ、初対面でさすがにそこまで迷惑をかけられないと近くにあるビジネスホテルを教えてもらったが、予約どころかすっかりテッちゃんと意気投合して呑み続けていた

「エロ本だって今はDVDがオマケで付いてくるじゃないッスか? ハーレー雑誌もミーティングのDVDとか付ければいいんスよ」

「面白いアイデアだけどね」

「でしょう? 色んなマフラーの音が入ったCDだっていい。マフラーって形は解っても『どんな音か』までは買って取り付けてみないと解らないじゃないッスか」

完全に酔っ払ってクダを撒いているオレの話を、テッちゃんは嬉しそうに聞いていた

 

夜中の3時過ぎまで二人で酒盛りが続き、さすがに今からホテルに泊まるのならここで寝ていけと薦められ、結局甘える事にした

「何から何まで本当にすいません、ありがとうございます」

「オレも遅い時はいつも店で寝るから気にしなくていいよ。 オレは明日朝から仕込みがあるから、起きてオレが居なかったら買い出しに行ってると思って」

「了解です。ありがとうございます」

 

「オレは厨房の奥で寝るから」というテッちゃんにお礼を言い、オレは座敷を借りて座布団を並べて寝た

大変だった一日の疲れのせいもあって文字どおり泥のようにグッスリ寝てしまい、目が覚めると朝の8時を過ぎていた

薄暗い店内は静かで、テッちゃんもいない

仕込みの買い出しに行ったのかな…と、思った時、厨房の横から二本の足がニョキっと出ていた

テッちゃんも呑み過ぎて、寝坊してしまったのだ

寝かしておくか迷ったが、仕込みもあると言っていたので声をかけてみると「寝過ごしちゃったな」とあっけらかんと言い、遅れているはずなのにオレに朝食まで作ってくれた

店の食材であろう卵で目玉焼きと肉を焼いてくれて、昨日オレが「白メシを食いたいぐらい美味い」と言っていたのを覚えてくれていて『イカの三升漬け』も出してくれた

お替わりまでして大満足のオレに「じゃあ、ちょっと仕込みの買い出しに行ってくるわ。20分~30分で帰ってくるから」と出ていったテッちゃんを見送り、オレは自分の食べた食器ついでに店の洗い物をした

洗い物と店内の片づけを済ませ、外に出て改めて自分のバイクを確かめる

昨日からの充電のおかげで充電自体は終わっているはずだが、レギュレターの接続部分が不安定である事には変わりない

バッテリーに負担をかけたくないし、ヘッドライトはなるべく使わない方がいいだろう

ここ岡崎からなら、静岡は隣りになるので明るい時間のうちに静岡県の沼津までは行けるはずである

明日の朝に沼津を出れば、明るいうちに東京まで帰れそうだ

そんな事を考えていると『ドコドコドコドコ』とハーレーの音が聞こえ、テッちゃんが戻ってきた

その姿を見て驚いたが、ジェットヘルメットに黒いサングラスをしたヒゲ面の長髪姿は、紛れもなくバイブズで何度も観た事のある人物で、「この人だったのか!」と衝撃を受けた

昨日までメガネに汚いTシャツにエプロン、膝までのカットオフのジーンズにビーチサンダル姿だったテッちゃんとは明らかに別人で、その姿に改めてオレにしてくれた全ての好意を含めた『人間としての厚み』を観た

テッちゃんが仕込みをしている間にコンビニを探し、テッちゃんが吸っている煙草を1カートン買って帰った

お世話になった、少しでものお礼のつもりだった

今日は沼津に泊まるというオレに、何かあったら使えとバッテリーの充電器を持たせてくれた

繰り返しお礼を言い、東京に帰ったら必ず送り返しますと約束して積んで行く事にした

今日も朝から夏の陽射しで、バイクの調子が戻ったわけではないが、夜と違って明るい分だけ全然マシだった

 

何よりも、ここ岡崎でテッちゃんに元気をもらった

充電させてもらったのは、ハーレーだけではなかったのだ

 

昼食が始まる開店時間の、テッちゃんが忙しくなる前に『フリーバード』を後にした

何度もお礼を言い、必ずまたこの岡崎に来ますと約束した

テッちゃんは昨日会った時からずっと、最後まで笑顔だった

 

セミが鳴き続ける8月の残暑の中、岡崎ICに向かって走る

 

再び、ラストランが始まった

 

*****後編おわり。 旅の結末、エピローグへと続く