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夜遅く、岡崎の『フリーバード』という広島風お好み焼きの店でテッちゃんという人に助けられた

オシボリで顔を拭いた時に目に入った日焼け止めのせいで、涙と鼻水が止まらない

 

ジョンジョンジョンジョンと延々に溢れ出てくるのだ

人生において、こんなに顔から水分が出続ける事などなかった

 

マズイ…とりあえず使い捨てのコンタクトを外そう

まずそう思った

 

しかし、ずっとバイクを修理し続けた両手はアブラ汚れで真っ黒で、目を触る為にトイレにこもって何度もひたすら手を洗い続けた

 

なんとかコンタクトを外して顔を洗い、ようやく席に戻ったがそれでもダメで、気を使ったテッちゃんがボックスティッシュを出してくれたのだが、オレの周りには鼻をかんだティッシュの山が延々と積み上げられ、店内は先にいたお客さん達のドン引きしている視線と空気でいっぱいである

 

こんな時間に独りで来たヤツがカウンターの隅で、ティッシュを大量に使って泣いている

 

確かに異様な光景ではあるのだが、意志とは関係なく流出し続ける涙と鼻水に、オレもどうする事もできない

 

日焼け止め……まさかこんなに強力だとは……

 

見かねたテッちゃんがアイボンまで出してくれ「なぜ見ず知らずのオレにそこまで……」と感謝し、どうにかこうにか落ち着いたが、まさに地獄の苦しみだった

 

食欲はないが、何か注文しなければ……

 

このお店を紹介してくれたバイブズの元編集長にお礼のメールを送って気がついた

ビールだけでは悪い、迷惑をかけっぱなしなのだから、食欲は無くても何かツマミをと思うのだが、この『フリーバード』は広島風お好み焼き屋さんという事で、いつもなら美味しそうに見えるメニューも、疲労のピークの今の状態ではソース系のメニューは重たかった

 

迷っていると『行者にんにく』という珍しいメニューを見つけた

昔、北海道を走った時に食べた事のある北海道でも限られた場所でしか採れないネギ科の植物なのだが、味はニンニクに近く、めんつゆ等のダシでつけ込んで食べる、非情に美味しい珍味である

それが遠く離れた岡崎で食べれる事が不思議ではあったが、これならサッパリ系だしツマミにもぴったりだ

 

それと『イカの塩辛』と『しょうゆ焼きそば』を注文した

『しょうゆ焼きそば』? ……焼きそばといえばソースなのに何故醤油?

疑問に感じたものの、今はこってりしたソースよりも醤油ベースの方がサッパリしてそうだなと注文したのだが、これが絶品であった

 

焼きそばを醤油と豚肉、モヤシと鷹の爪とニンニクで炒めるのだが、サッパリしているのはもちろん、ピリッとした鷹の爪の辛味も効いてとにかく美味しい

なぜ焼きそばを今までソースで食べてたのか?と感じるぐらいの美味しさに驚いていると、テッちゃんが「九州でこの醤油を見つけた時に、この焼きそばを考えたんだ」と教えてくれた

 

イカの塩辛だと思っていたメニューは『イカの三升漬け』と呼ばれるメニューで、これもイカのハラワタで漬ける一般の塩辛と違い、イカを醤油と鷹の爪で漬ける東北独特のメニューで、生臭さは一切なくサッパリながらピリッとした辛味もあって、酒と合うのはもちろんだが、白いゴハンと食べたくなるような美味しさだった

後になって知ったが『三升漬け』の『三升』とはお米の事で、『この塩辛で米が三升食べれるから』が名前の由来らしい

 

そして、そういう事だったのだ

テッちゃんはバイブズの元編集部で、日本中を走って来た人だから、各地の美味しいものを知っていたのである

 

全てに納得がいって、食欲なんかなかったはずなのに、いつの間にか箸が止まらなくなっていた

 

そうだ、泊まる場所を探さなければ……

 

すっかり忘れていたが、今日は沼津まで行くつもりだった為に、宿を確保していない

 

「どこか近くに泊まれるホテルとかありませんか?」

テッちゃんに聞いてみた

 

「奥の座敷で良ければ、泊まってっていいよ」

いやいやいやいや、さすがにそこまで甘えるわけにはいかない!

それにお店の閉店時間も解らず、今日一日の疲労に呑んだアルコールのせいで、閉店まで起きて待っていられる自信もなかった

 

「お気持ちは本当にありがたいのですが、そこまでお世話になりっぱなしなわけにもいかないので……」

「別に構わないけど……ホテルなら出て200mぐらい先にスーパーホテルがあるよ」

「ホントですか? よかった…今日はそこに泊まります」

 

そんなやりとりをしながら、初めて訪れた岡崎の夜が更けていった

 

*******つづく