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降り続く雨の中、あまりの寒さに目的地である高知ICよりわずか数キロ手前の、南国サービスエリアに入った

『バイカーあるある』かも知れないが、一度バイクに積んだ荷物は、できれば目的地に着くまで広げたくない

縛ったロープをほどき、カバンの中身をひっくり返してからまた縛り直すなんて、余計な手間でしかない面倒な作業である

そんな事を百も承知の上で荷物をほどき、半ソデしか用意してない着替えの中から『それでもまだ厚手の半ソデ』を選び、寒さに震えながらロボットのパントマイムのようにカクカクと歩いてトイレで着替えた

雨のせいもあってか車が数台停まっているだけの南国サービスエリアは、バイクなんてオレ以外はもちろん1台も停まってなくて、もはや『ひとり旅』なのか『夜逃げ』なのかも解らない、寂しい絵だった

無駄に着替えて洗濯モノを増やしただけとは思いたくなかったが、認めざるをえない

こっそりトイレで着替え終えると再び荷物を縛り直し、わずか数キロ先の高知ICを目指した

命からがらやっと高知に到着し、無事にチェックインを済ませる

宿泊料金は¥5,000程度で、昨日泊まった淡路島のホテルの半額以下である

ここ高知では2泊するつもりで、翌日すぐに先を目指すのではなく、ちょっと行ってみたい場所があった

 

きっかけは、深夜にたまたま観たTVで、関西で放送されているローカル番組だった

コスプレ姿の女の子が関西周辺を旅していて、その時はちょうど四国の高知を訪れていたのだ

『ひろめ市場』という屋台が集められた屋内で、新鮮なカツオをポン酢ではなく塩とニンニクだけで食べる『カツオの塩タタキ』は、何とも美味そうでぜひ一度食べてみたいと思ったのである

今でこそみんなとすっかり仲良くなって、行けば店員さんから常連さんまで迎えてくれる高知のひろめ市場ではあるが、初めて行ったこの時は当然ルールも解らなければ独りぽっちだった

『独ぼっちだった』と書くと寂しげだが、8人用のテーブルでたまたま同席した人たちと一緒に呑んで盛り上がるというシステムも知らなかったし、一番隅のテーブルの一番端に、iPodを持ち込んで音楽を聞きながら呑んでいたぐらいなので、自分から空気を遮断していたという表現の方が正しいと思う

ただ、『寂しい』という感覚はなく、耳から聞こえる音楽を聴きながら、目の前に広がる光景を「あぁ、なるほどこういう場所なんだな」と映像を楽しんでいる感覚だった

目的だった『カツオの塩タタキ』はやはり絶品で、ブ厚く切ってくれる新鮮なカツオを口に運ぶと、カツオの旨味が口一杯に広がり続ける

乾燥させた『カツオ節』から良質なダシが取れる事に今さらながら納得がいくような、カツオの旨味を存分に味わえる料理で、そこに薬味として乗せられたスライスした生のニンニクのシャリシャリとした食感とピリッとした辛み、降りかけられた塩は時に甘みすら感じるぐらい絶妙にマッチしていた

その時まで、個人的にカツオは別にそこまで好きではなく、マグロやエビ、イカの方が遥かに好きなお刺身だった

お店に行ってもカツオを注文する事の方が珍しいぐらいだったのだが、それは今まで本当に美味しいカツオを食べた事がなかったからだと理解したし、自分の中の『好きなお魚ランキング』があるとするのなら、イッキにゴボウ抜きしたと言ってもいいぐらいの衝撃だった

ただ、それはここ高知で食べるからであって、この先の道中で食べたカツオはそこまで新鮮ではないお店もある事にも気づき、好きにはなったものの東京でも食べようとは思わなかった

 

正直、今までは独りで呑みに行くと寂しいのかなと思っていた

自分が惨めに見えるような気もして、抵抗があった

しかし、実際は違っていた

自分のペースで呑んで食べて、満足して帰りたくなれば帰ればいい

自分には向いていないかもと思ったが、決してそんな事はなくて、自分の中での楽しみ方が替わっただけだった

それならそれの『良さ』があって、そう楽しめばいいのだ

 

ここに来るまでの自分の不安はただの杞憂だった事を知り、二件目へとハシゴして屋台で呑み直している頃には、完全にひとり旅を満喫していた

 

つづく*****