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大きな声で呼べば聞こえそうなぐらいの所で待つ同級生たちを目の前にしながら、突然泣き出した彼女の扱いにとても困った

同級生たちに見つかって冷やかされるのはまっぴらだが、そうじゃなくたって、早朝の東京駅のホームで下を向いて泣いている女性と、立ち尽くしている男の姿は目立つ

「……帰って来る日にもまた、迎えに来るから、気をつけてね……………」

「泣くなって…どうせすぐ帰って来るからよ」

そんな言葉しかかけられなかったが、実際たかだか三泊四日の国内、広島・倉敷への修学旅行である

何とか彼女を落ち着かせてお礼を言い、オレたちを乗せた新幹線が出発した

 

「なぁ、(私服は)何を持ってきた?」

「オレ、エンジニアブーツ持ってきたゼ(笑)」

「マジで? あんな重たいモン持ってきたの?」

新幹線の中のトイレは狭く、そこに友人と二人でギュウギュウになって煙草を吸いながらそんな話をした

当時エンジニアブーツならチペワかレッドウイングが一番カッコ良くて、たまたまパチスロでボロ勝ちした時にフンパツして買ったレッドウイングのエンジニアブーツは、オレの中で一軍から外せなかったアイテムだった

一張羅を着て夜に許可されている外出へは何処へ行こう?

そんな話で盛り上がっているとトイレのドアの向こうから咳払いが聞こえ、先生らしき人物がドアをノックした

 

非情にマズイ

オレたちがドアの向こうが誰かが解らないように、相手も中に居る自分たちの事は解らない

ただ、個室であるのに話し声がしている時点で、同じ車両に乗る学生たちである事は容易に想像できるし、そんな所で隠れてる目的なんかもバレバレのはずだ

息を殺して慎重に、充分過ぎるくらいの時間をとってトイレから出た時には誰も居なかったが、この辺りから既に事件の予兆は始まっていた

 

宿泊先である広島のホテルは、昭和天皇も泊まった事があるぐらいの格式が高い綺麗なホテルで、オレたちの学校以外の一般客も数多く泊まりにきていたぐらい、大きなホテルだった

だが、逆にそんな所へ男同士だけの高校生が来てどうするんだ?という虚しさもあり、改めて寮生活の場所が寮からホテルに変わっただけの、物足りなさを先に感じてしまうのだった

割り振られた部屋に入って間もなく、マクラで友人同士と殴り合っている内に、誰かが他の友人の部屋を見に行こうと言い出した

それならばマクラを持って行き、友人の部屋のドアをそっと開けて手だけを差し込み、部屋の電気を消してみんなでなだれ込んでマクラを持って暴れようと発展し、到着早々にマクラを片手に友人の部屋を回った

思った以上に効果が大きく、襲撃を受けた友人は次の部屋に行く時には同じようにマクラを持った仲間となり、部屋を回る度に参加者が増えて行った

「今度はムカつくヤツの部屋で暴れようぜ」

そんな事を言い出すヤツが現れ、それから目的が違うものに変わった

 

もともと寮生活を送る為に校則はとにかく厳しく、ケンカやイジメは一回見つかっただけでも即退学になる

その為に退学になって学校を去る者は後を絶たなかったし、事実卒業するまでに100人以上が退学になった学校だった

当然普段我慢しているのだが、それを相手も理解していて「ボクが何かされたらキミが退学になるだけだよ」とでも思っている様な、勘違いした輩も少なくなかった

そんな勘違いした連中ばかりのいる部屋に、同じ様に部屋の電気を消したと同時に流れ込み、マクラを持って暴れていると、友人が振り回したマクラが部屋の蛍光灯に当たって落ちてきたり、中に居たヤツのメガネがフッ飛んで割れたりした

 

バカをやって盛り上がり、やり過ぎてしまったのだ

 

やり過ぎで済まなくなったのは、その割れたメガネの持ち主が、たまたまその部屋に来ていた英語の先生のメガネだと解ってからだった

 

つづく******